fiction

99.98%くらいは本当のこと且つ作りばなし

丸くてふわふわなもの

 丸くてふわふわなものと同居している。

 自室の扉横が彼女の定位置で、出入りするときにそっとなでることもある。ときどきやわらかくつついたりもする。ちらりと視線を向けられるけれど好きにさせてくれる。

 彼女は一般的に愛玩動物とされるもので、わたしは専用の店舗で彼女を購入した。売り買いされていることに疑問を抱きながら、ただきゃっきゃとはしゃいで迎え入れた。もう××年ほど前のことだ。

 彼女は子どものころとても暴れん坊で、わたしの所有物を片端から壊した。お気に入りの置物、褒めてもらった作文の原稿用紙、買ったばかりの扇風機。夢中になって壊すのだ。そしてちらりとこちらを見て、これは壊すと悲しまれるものだったのだと判断するともう壊さない。その代わりこちらを見てこれは壊していいと判断したものは丹念に破壊する。機械の内部のねじのひとつまでねじ切る。とことん遊びつくす性分なのだろう。

 彼女は壊すとなるととことん熱中するたちだが、人間については脆くしょうがない生き物と判断したのかひたすらに優しい。本来起きる時間に起きてこなければ肩をつかんで揺り起こしてくれるし、バタバタと出ていくものにはちらりと目線で見送ってくれる。どんなに怒っていても教育的甘噛み以外はされたことがない。しかもそれもたった一度だけだ。

 彼女も今は年老いて、心まで丸くふわふわになったのかときどき昼寝中に寝言のような音を出す。舟をこぎ、身じろぎし、楽しそうな表情をする。お昼、すずしくもあたたかくもない気温のときが一番眠りやすいらしい。腹部が穏やかに上下する様をちらりと盗み見ては心和ませているが、あまり何度も繰り返すといつの間にか起きてこちらをちらりと見つめている。口元が緩んでいるので怒らせてしまっているわけではないと思うけれど。

 丸くてふわふわなものと暮らしている。